日本酒の味を決めるのは?

4540960024

前回、三増酒のお話の中で日本の酒造りの伝統技法についてちょっとだけ触れました。

それがこの「柱焼酎(はしらじょうちゅう)」です。

目的は「火落ち」や「腐造」を防止することです。

火落ちとは、日本酒の製法用語の一つで、製造している日本酒が貯蔵中に白濁して腐造することをいいます。

原因は火落ち菌によって引き起こされます。

「もやしもん」でTVアニメにもなりましたので名前くらいは聞いたことがある方が多いと思います。

火落ち菌とは、コウジカビが生成するメバロン酸(通称「火落ち酸」)を主食とする乳酸菌の一種です。

これが日本酒に入り込むと濁りを生じ、酸化させ、また臭みを帯びさせます。6%くらいのアルコール濃度が最適な成育環境ですが、25%程度でも問題なく成育します。

ちょうど日本酒のような弱酸性な環境を好むんですね。

 

昔の不衛生な木樽では、内部まで完全に殺菌することが困難であったため、頻繁に起こっていた現象でもあり、ひとたび起こると何年にもわたってその酒蔵を悩ませる災害でした。

火入れをせず、日本酒の中に火落ち菌を放置すると、安全醸造が保障されている現在でも過熟になって酒が酢のようになったり、老ね香(ひねか)を発したりします。

 

これを防ぐための手法が柱焼酎を添加することです。

柱焼酎とは、江戸時代初期に存在した日本酒の伝統的製法用語の一つで、米焼酎や粕取り焼酎を醸造する醪や上槽した新酒に加える技法のことをいいます。

安全醸造が確立する前、おおよそ明治の中ごろまでは一般的におこなわれていました。

『童蒙酒造記』(どうもうしゅぞうき)に、醸造した酒に焼酎を入れると「味がしゃんとし、足強く候」というくだりがあり、これによって「柱焼酎」と名付けられました。

「足強く候」とは腐りにくいということです。

 

柱焼酎を入れることによる効果

もろみの中には多くのアミノ酸によって構成された香気成分やうまみ成分が含まれています。

ところが、普通にもろみを搾って酒粕とアルコールを分離しようとしても、日本酒のアルコール度数が低いためにそれらの成分の多くは酒粕側に残ってしまいます。

ここに高濃度のアルコールを添加すると、香気成分やうまみ成分はその高濃度アルコール中に溶け出します。

高濃度アルコールがもろみから成分を抽出してくれるのです。

また、柱焼酎を作る手間暇や費用対効果を考えますと、決して醸造した日本酒を薄める目的では採算があいません。

同じくアル添とされてはいますが、戦後の国策による三増酒政策とはまったくその目的が違うのです。

吟醸酒に若干のアル添が許されている理由もここにあります。

高濃度アルコールを活用することで、酢酸イソアミル(バナナ・メロン香の元)やカプロン酸エチル(リンゴ香の元)などの香気成分を効率よく抽出しているのです。

また、大吟醸酒などでは発酵の途中であっても、目標のアルコール度数・日本酒度に達した場合には強制的に発酵を停止させる目的にも使われています。

狙った酒質に仕上げるために大切なことなのです。

そしてこの狙った酒質に仕上げる技法は、長年経験を積んできた杜氏にしかできない匠の技なのです。

 

生か火入れか

生酒とは「火入れ」と呼ぶ加熱処理を一切していないお酒です。

出来立てでフルーティな味わいを楽しむことができます。

ただし、火入れを行っていないためにとてもデリケートです。

最近は、流通技術が発達してきたためだいぶ出回るようになりましたが、それでも完全に冷蔵のままで流通させなければなりませんし、保存や管理もとても難しいお酒となりますので、地元でしか流通・消費されないことが多い本物の日本酒ですね。

 

日本酒を造る工程で、「加熱処理(火入れ)」という作業をするのですが、これは日本酒の腐敗を防ぐ目的で熱を加えます。

火入れをしないと火落ち菌によって、日本酒は貯蔵中に白濁してしまうことはすでに説明しましたよね。

安定した製品造りには欠かせない作業なのですが、火入れをすることにより味や香りが変わってしまうことも事実です。

 

通常日本酒は、製品にするまでに2度火入れを行います。

搾ったあとに貯蔵するわけですが、搾ってから貯蔵の間に1回、貯蔵してから製品にするまでにもう1回火入れをするのです。

生貯蔵酒は、搾った後に火入れを行いません。

製品化する前に1度だけ火入れを行います。

生詰酒の場合は搾った後に1度火入れを行い貯蔵しますが、そこから製品化するまでの間に火入れを行いません。

最初に生酒の流通・保管の難しさについて書いた通り、まず出回りませんのであなたが普段目にしている「生酒」はだいたいがこの「生貯蔵酒」のことになります。

なお、熟成古酒というものがあります。

熟成古酒とは「満3年以上蔵元で熟成させた、糖類添加酒を除く清酒」のことです。

この他に古酒と呼ばれるものもありますが、「古酒」は製造年月から1年以上経ってから出荷されるもので、2年以上経っていると「古古酒」と呼ばれたりします。

ちなみに熟成古酒は「特定名称酒」ではないため、ラベルへの表示規定がありません。

このために1~2年で出荷されているものにも「熟成酒」や「長期熟成」、「秘蔵酒」などと書かれていることがあるのです。

「ひやおろし」とか「秋あがり」とかがこれに該当します。おいしいですよね。

 

熟成古酒の大まかな分類は3つです。

濃熟タイプ

醸造方法は本醸造と純米酒になります。

熟成温度は常温で、熟成を重ねるにつれて照り、色、香り、味が劇的に変化します。(もちろん良い方にです)

中間タイプ

醸造方法は本醸造酒、純米酒に加え、吟醸酒と大吟醸酒です。

熟成温度は低温熟成と常温熟成を併用します。

低温熟成から常温熟成へ、またはその逆の貯蔵法により、濃熟タイプと淡熟タイプの中間の味わいを実現しています。

淡熟タイプ

醸造方法は吟醸酒と大吟醸酒です。

低温熟成で吟醸酒の良さを残しつつ、ほどよい苦みと香りが渾然一体となった幅のある深い味わいになります。

 

ここで豆知識です。

「日本酒って熟成させると酢になるのでは?」

実は日本酒は放っておいて勝手に酢になるようなものではないのです。

日本酒を酢にするには、「酢酸菌」を日本酒に植え付けて放置する必要があります。

火落ちは火落菌によるものですから、酢酸菌による酢酸発酵とは別のものです。

酢酸菌はアルコール度数10%以上では生育できないために、通常の清酒(アルコール度数15%前後)では古くなっても、酢酸菌を植え付けたとしても酢にはならないとされています。

ましてや、にごり酒と火落ちによる白濁も当然違います。

にごり酒とは、製造過程においてお酒を濾すことが義務付けられていますが、この時に使うザルの目を粗くすることで酒中の「おり」を多く残す手法です。

※おりとは、もろみ中にある原料米や、米こうじやその他分解物であったり、酵母のことです。

 

今回のお話は昔からある柱焼酎を添加することは、現在言われている三増酒とはまったく違うよ!ということと、正しいアル添はお酒のうまみや香りを引き出すための技法なんですというお話でした。


投稿者:

らけ

酒が大好きです。 特に日本酒が大好きで、一時期日本酒の会で勉強しておりました。 他にはカクテルやワインを好みます。 おいしいお酒、本物のお酒についての情報を提供していきます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です